Olive の日記

文学少女

『ブラフマンの埋葬』の感想

 小川洋子さんの『ブラフマンの埋葬』を再読した。私は文庫版を読んだが、装丁のデザインは落ち着いた感じで、折り返し部分が一般的な文庫本よりも少し長く、表表紙の折り返し部分にも装画が描かれていて、十河岳男さんと山本容子さんのこだわりがうかがえる。薄い本なので、読みやすいのではないかと思う。本当に綺麗な物語なので、本棚に置くことができて、とても嬉しい。

 本作は、「僕」がブラフマンと出会い、ブラフマンを埋葬するまでを描いた物語である。舞台は辺鄙な「村」の<創作者の家>である。奥泉光さんの解説にも書かれているが、固有名詞がほとんど登場しない。固有名詞が氾濫する情報・物質社会において、固有名詞がほとんど登場しない本作では、文章からも「田舎」を感じ取ることができ、心地よい。また、解説には、「「僕」は過去を、そして未来をもたない人間である」とも書かれている。正にその通りで、そのような描写はなく、ブラフマンの物語を描くことに終始している。

 静かで、悲しくて、どこにでもありそうな物語。現実にはどこにもないのだろうと思い、悲しい気持ちになった。