Olive の日記

文学少女

『恋文の技術』の感想

 森見登美彦さんの『恋文の技術』を久しぶりに読み直した。この小説は、私が森見登美彦さんの作品の中で一番好きな小説だ。この作品は、書簡体小説という珍しい形式の小説である。本当に手紙の内容が文章の全てである。技術書ではない。

 内容は、僻地の実験所に飛ばされた大学院生が京都にいる知り合いに手紙を書きまくるというものである。作中の表現を引用するなら、「あの卒業式のあと、雨の中をずんずん船出していった伊吹さんを見送って、さしたる目的もなく、ただなんとなく大学に残ってしまった」森田一郎さんがただ手紙を書きまくるお話である。

 最後の「伊吹夏子さんへの手紙」を読んで、森田一郎さんの新しい一面を見て、大好きになった。手紙だからこそ、書き手は書く相手によって違う一面を見せるし、そこが書簡体小説の良いところだと思った。この小説の手紙は、最終的に「伊吹夏子さんへの手紙」に収斂するものだし、この手紙がやはり一番好きだ。正直に言うと、最初に読んだときは、あまり面白くないなぁと思いながら 3 回に分けて読んだ。そして最後の手紙が忘れられずに再び読み直すということを複数回行った。このように、森見登美彦さんの小説は、後々に良さがわかって大好きになるものが多いと思う。残るものがあるような、と言えば伝わるだろうか……。