Olive の日記

文学少女

『魔法の色を知っているか? What Color Is The Magic? 』の感想

 森博嗣さんの『魔法の色を知っているか? What Color Is The Magic? 』を読んだ。本作はWシリーズの第2作目である。

 とても面白かった。前作で未来の世界で直面している問題は出尽くしたので、このまま解決に向かっていくと勝手に思い込んでいた。本作で明かされた問題についても、前作を読んでなんとなくだが予感していたし、そうするように誘導されていた。しかし、Wシリーズの枠組みは予想を超えて、もっと巨大であった。また、本作では前作ほど出番がなかったウグイさんだが、やはりかわいかった。ウグイさんの「後悔するのは嫌です」というセリフに私情が混じっているような気がしてニヤニヤしてしまった。本作中で言及されなかったが、ハギリさんはもうカウンセリングを必要としていなくて、心の傷の原因はウグイさんだったんだなぁと思い至って、またニヤニヤしてしまった。
 既に『風は青海を渡るのか?』と『デボラ、眠っているのか?』の刊行が決定しているようである。早く刊行されることを願ってやまない。このWシリーズは、人間関係のどろどろしたところや面倒くさいところがほとんどないので、そういう小説を敬遠しがちな人にもお勧めしたい。
 

『エチュード春一番 第一曲 子犬のプレリュード』の感想

 荻原規子さんの『エチュード春一番 第一曲 子犬のプレリュード』を読んだ。
 内容は、あらすじそのままである。
 面白くなかった。私が面白く感じなかった理由を考えてみる。今までの荻原規子さんの作品では、高校生くらいの年齢の登場人物がメインで、ファンタジー的な要素に否応なしに巻き込まれつつ、自分で道を切り開いていくという筋書きのものが多かった。しかし、本作のファンタジー的な要素は、美綾が切り捨てられる程度のものであり、美綾とその要素が上手く絡んでいる感じがしない。荻原規子さんの過去の作品の中では、『樹上のゆりかご』が近いと思う。しかし、『樹上のゆりかご』は、シリーズものではなく、一冊で完結するので、ひろみの悩みはストーリーに直結していたが、本作では美綾の様々な悩み、直面していること(今後のストーリーにかかわってくるのだろうが……)をひたすら広げていて、うんざりしてしまった。また、露骨な大学生らしさが気持ち悪かった。

『非ユークリッド幾何の世界』の感想

 ブルーバックス、寺阪英孝さんの『非ユークリッド幾何の世界』を読んだ。非ユークリッド幾何とはどのようなものか?どのようにして発見されたのか?という疑問を解決したい人が読むと良いだろう。第1部は平行線について考え、非ユークリッド幾何へ接近し、第2部では非ユークリッド幾何発見の歴史を読み解き、第3部では初等幾何を用いて非ユークリッド幾何のモデルを作るという構成になっている。ユークリッドの公準、すなわち約束事は「直線外の一点を通ってこれと平行な直線はただ一つしかない」であることをここに述べておく。

 内容について、「平行線の公理を否定すると線分には単位の長さ C が定まってしまう」というところからだんだんと面白くなっていった。読んでいて、平行線の公理の否定の困難さが伝わってきたので、若ボヤイが tan¥frac{¥theta (x)}{2} = e^{-¥frac{x}{k}} を導出した場面では、一緒に喜んでしまった。老ボヤイの「幸福な人は他人も幸福にしやすいが、干からびた泉からは何が流れるだろう」という言葉、彼の不幸な人生を表しているようだと思ったし、悪い意味で私にも当てはまるのではないかと思った。
 面白くない、根気がいる部分をがんばって読むだけの価値はあったのかもしれない。

『ハードボイルド/ハードラック』の感想

  吉本ばななさんの『ハードボイルド/ハードラック』を読んだ。本書は、『ハードボイルド』と『ハードラック』の2つの短編小説で構成されている。一編あたり60ページほどである。
 どちらも悲しくて、優しくて、美しい余韻の残る物語だった。挿絵はよかったのだけれど、その裏面に文書がなく、唐突に物語が途切れてしまうのが少し嫌だった。

『ビールの科学』の感想

 ブルーバックス、渡淳二さんの『ビールの科学』を読んだ。『もやしもん』を読んで以来、興味を持っていたのだが、ようやく読む気分になった。
 ビールに関する様々な知識を得ることができた。ビールを飲んだ経験が浅い私には、様々な種類のビールの特徴の説明、特に味の部分をあまり理解できなかったが、将来飲む楽しみが増えたように思う。「イギリス系の上面発酵ビールは、爽快感を求めてよく冷やしたものをがぶがぶ飲むと言うよりは、どちらかと言えば、やや温めのビールを薄暗いパブなどでちびちびと飲むようなスタイルが好まれています。」、ちょっとかっこいいと思った。昔は、こういったパブでは、白磁にビールを注いで飲んでいたようである。また、ビール製造業が農業に対する「農産物加工業」としての役割を担っていることを初めて知った。アルコールの代謝経路、以前教えていただたことがあったが、ここではそこから「人がお酒を飲むこと」について述べてあり、興味深かった。特に MEOS のところ。
 読書というよりも勉強をしているような感じがして、ドゥーチェに憧れる私としては、少しつらかった。また、このように感じた要因には、ビールというものが想像以上に複雑であったことが挙げられる。しかし、この本で言われているように、「知るは喜びなり」、少しだけビールと親しくなれた気もする。
 

『ブラフマンの埋葬』の感想

 小川洋子さんの『ブラフマンの埋葬』を再読した。私は文庫版を読んだが、装丁のデザインは落ち着いた感じで、折り返し部分が一般的な文庫本よりも少し長く、表表紙の折り返し部分にも装画が描かれていて、十河岳男さんと山本容子さんのこだわりがうかがえる。薄い本なので、読みやすいのではないかと思う。本当に綺麗な物語なので、本棚に置くことができて、とても嬉しい。

 本作は、「僕」がブラフマンと出会い、ブラフマンを埋葬するまでを描いた物語である。舞台は辺鄙な「村」の<創作者の家>である。奥泉光さんの解説にも書かれているが、固有名詞がほとんど登場しない。固有名詞が氾濫する情報・物質社会において、固有名詞がほとんど登場しない本作では、文章からも「田舎」を感じ取ることができ、心地よい。また、解説には、「「僕」は過去を、そして未来をもたない人間である」とも書かれている。正にその通りで、そのような描写はなく、ブラフマンの物語を描くことに終始している。

 静かで、悲しくて、どこにでもありそうな物語。現実にはどこにもないのだろうと思い、悲しい気持ちになった。

『パウル・ツェラン詩集』の感想

 パウル・ツェラン著、飯吉光夫訳のパウル・ツェラン詩集』を読んだ。

 難解だった。日本語訳であるにもかかわらず、単語がわからないものが多くあった。具象的とあらわされる類の詩であるらしい。

 私が特に好きだったのは、『掌を時刻でいっぱいにして』、『ストレッタ』、『これはもはや』、『立っていること』である。『ストレッタ』は勢いのあるというか、追い立てられるような感覚をもたらす詩で、あとがきで言及されているが、ツェラン強制収容所を訪れたときの詩らしい。ツェランの生い立ちを知り、再び読むと、どうしようもない悲しさが感じられるような気がした……。